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2005年7月29日 (金)

 『ニューヨーク大聖堂』

○2005年7月29日 (金)

 『ニューヨーク大聖堂』上・下  ネルソン・デミル 講談社文庫

 ネルソン・デミルの新作と思って読み出したが、IRAの話である。9.11以後の今、何故、IRAの話かと思いながら、発表年を見ると、1981年とあった。1985年のヴェトナム戦争を描いた「誓約」以前の作品である。
 今になって、IRAの話を書くはずはないなと思いながら、でも、北アイルランドの紛争がどうなっているのかについては、時折、和平のニュースを見聞きすることはあった、完全に収束したという話は聞いていないので、気になっていた。
 調べてみようと思っていた矢先の今朝、英国のカトリック系過激派アイルランド共和軍(IRA)の指導部は28日、武装闘争の全面停止を命令し、政治運動に移行するとの声明を発表したというニュースが流れてきた。1998年の包括和平合意がようやく現実のものになってきたのだという。
 IRAとは、英国の支配下にある北アイルランドを英国から分離させ、全アイルランドの統一をめざすグループであるが、IRAの歴史は古く、そもそも、IRAの設立は、16世紀、清教徒革命で実権を握ったオリバー・クロムウェルの時代に遡る。クロムウェルのアイルランド侵攻後、プロテスタントによるカトリック弾圧が続いた。
 アイルランド共和国は1922年に独立し、1949年には英連邦からも独立したが、英国のアイルランドにおける重要地であったアルスター地方は英国(プロテスタント)の支配が続き、カトリックの民族独立派(IRA)が武力抗争を続けているのが、北アイルランド紛争の歴史である。
 映画「マイケル・コリンズ」は、アイルランド独立の闘いを描いたものである。
 北アイルランドのIRAの闘士、今ではテロリストというのだろうが、ミステリでは、ジャック・ヒギンズの「死にゆく者への祈り」などIRAにシンパシーをもつ小説が多かったように思う。高村薫の「リヴィエラを撃て」も確かそうだった。
 
 表題の「ニューヨーク大聖堂」とは、マンハッタンの五番街、ロックフェラー・センターの建物の真向かいにあるローマ・カトリック教会のセント・パトリック大聖堂のことである。
 50年をかけ、1908年に完成したこの聖堂は、アイルランドの守護聖人である聖パトリックがまつられているゴシック様式の荘厳な建物である。
 この本の最初に、大聖堂の1階と屋根裏の平面図が掲載されているが、どこかに写真はないかと、探したら http://www.ktroad.ne.jp/~kazumi-t/newyork/stpatricks.html のサイトに建物の外観の写真がでてきた。
 五番街で買い物に明け暮れた人も、この写真をみれば、あの建物かと思い出す人も多いだろう。
 ニューヨークでは、毎年、3月17日の聖パトリック・デイに、この前でアイルランド系市民によるパレードが行われている。今年で、244回目ということなのだから、歴史の古い行事である。
 「ニューヨーク大聖堂」の主人公は、IRA(アイルランド共和国軍暫定派)の同志で、恋人同士であったモーリーンとフリンである。
 モーリーンは、IRAと袂を分かち、英国政府との交渉により、アイルランド紛争で拘留されている者たちの解放を実現しようとしている。1984年、223回目の聖パトリック大聖堂の前で、パレードを迎えるモーリーンたちは、フィアナ騎士団を率いたフリンは、モーリーン、英国総領事、枢機卿たちを人質に、大聖堂を占拠し、英国政府に拘留されているアイルランド人の釈放を要求する。
 ニューヨーク市警の交渉人ととテロリストのやりとり、ニューヨーク市長とニューヨーク州知事とのかけひき、ニューヨーク大聖堂の設計図や地下の秘密の通路などの話や、大聖堂内部での銃撃戦など、デミルらしい面白さに満ちていて、最後まで、一気に読ませてくれる。

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