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2005年10月 7日 (金)

 『ある日系人の肖像』

○2005年10月7日(金)
 『ある日系人の肖像』 ニーナ・ルヴォワル (扶桑社ミステリー)

 ジャッキー・イシダは、カリフォルニア大学L.A校の三年生である。大手ロー・ファームの就職も決まり、ジャッキーの悩みは、ぎこちなくなっている恋人のローラとの関係であった。亡くなった祖父フランク・ナカイの遺言には、カーティス・マーティンデイルに、店を遺すとあった。フランクはクレンショー地区で食料雑貨店を営んでいたが、1960年代、ワッツ地区で起きた黒人暴動の後、店を手放し、引っ越しており、遺族の誰も、カーティスのことは知らない。店の代金とおぼしき現金3万8000ドルも遺されていた。
 カーティスのことを調べてほしいとの叔母の願いを受け、ジャッキーはフランクのかつて住んでいた街を訪れる。カーティスは、フランクの店を手伝っていた黒人の少年で、ワッツの暴動の後、冷蔵庫で凍死したカーティスを含む4人の少年が発見されるが、犯人は捕まっていない。
 暴動当時、少年たちがいる店に警官がいたことが目撃されている。ジャッキーは、カーティスのいとこのジェームズ・ラニアと、当時の事情を知る人たちの話を聞きにいく。

 物語は、ジャッキーの生きるカリフォルニアの大地震のあった直後、1994年の今という時代から、ワッツ暴動起きた60年代のフランクたち日系人の生活、さらに、日本が米国と戦争を始めたことにより、収容所に強制的に隔離された日系人の生活、欧州戦線に従軍し、戦ったフランクたちの日系人部隊の世界の40年代と、交互に描かれ、日系人であるフランクの生涯が淡々と描かれているのだが、そこには、まさしく、「ある日系人の肖像」というミステリとしては地味なタイトルではあるが、邦題の所以にふさわしい内容になっている。但し、原題は、「サウスランド」とさらにそっけないのだが、この小説のモチーフである人種差別の象徴として、ロス・アンジェルスの南部地区とアメリカの南部と掛け合わせたようにも思えるのだが、私個人の勝手な思いつきの推測である。
 ただ、この小説は、日系人の受けた差別を正面から描いたようにようにも見えるのだが、本題は、さらに差別を受けている黒人の少年が受けた思いのほうがより強く迫ってくる。
 それでも、黒人差別の知識をもっていても、アメリカで日系人受けた差別について知る日本人は少ない。アメリカと戦争をしたことすら忘れ去ってしまっているのだから、仕方がないのかもしれないが、今、一度、このような小説を読むことによって、アメリカのもつ歴史の暗い側面を再認識しておくいい機会になる。
 ジャッキーの同性の恋人との関係の描かれ方も非常に新鮮であり、やや重くなりがちなストーリーに親近感を抱かせる。今年の推奨ミステリの1冊である。

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