« 『高校サッカー』 | トップページ | 『耽溺者(ジャンキー)』 »

2006年1月11日 (水)

『福音の少年』 

○2006年1月11日(水)
   『福音の少年』 あさのあつこ 角川書店

 ”それがとても怖い。全身を汗に濡らすほど怖い。来るなと叫び、飛び起きたことが何度もある。
   違和は感じていた。違和感という言葉すら知らなかった子どもの頃から、ここは自分の居るべき場所ではないという感覚がずっと付きまとっていた。それは、自分探しとか、居場所のない存在とか、どこか自己陶酔を含んだ甘やかな流行り文句とは全く異質のものだ。”(p81)

孤高の天才的な野球少年を描いた『バッテリー』(ⅠないしⅣは角川文庫、Ⅴ、Ⅵは教育画劇)で、ブレイクしたあさのあつこの野心的な小説である。
少年たちの野球の世界を独特の身体感覚でかいたあさのの世界がこの小説でも、高校生の少年二人の友情とも言い切れない交情を展開していく。
 火事で一人の少女が焼死した。少女が恋人とした永見明帆は全国でも有数の進学校に合格しながら、少女と同じ高校に進学した。少女の幼なじみで、アパートの隣室に住む柏木陽は、明帆に面と向かって、「人殺しの眼えしてたぜ」といい、少女にも、「永見は危ない。やめとけ」という。少女は、「アキくんとは別れない」と陽に答えるが、何故かとは聞かなかった。
 少女だけではなく、少女の家族や陽の家族も焼死した。隣町にアルバイトに行っているとした少女の話は嘘であった。
 陽と明帆は、少女は殺されたのだと確信する。このように話は、ミステリ的な展開をしていくのだが、あさのの関心は、大人の常識とは少しずれた少年二人の感情の動きと行動の方にあるようで、ミステリ的大団円とはなっていかない。

   ”真相を知ることと、全てが解決することは別問題だ。現実はドラマとはちがう。犯人がわかって終了ってことにはならんだろうな。むしろ、わかった後の方がずっと・・・”(p278)  

 この本が、高校生を対象にしているものが、大人を読者としているのか、よく分からないが、今時の高校生が、この小説の少年たちにシンパシーを抱くのだろうかの方が、関心がある。

|

« 『高校サッカー』 | トップページ | 『耽溺者(ジャンキー)』 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『福音の少年』 :

« 『高校サッカー』 | トップページ | 『耽溺者(ジャンキー)』 »