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2006年6月18日 (日)

『疑惑のアングル』

○2006年6月18日(日)
  『疑惑のアングル』  新藤健一 平凡社

 著者の新藤健一は、共同通信のカメラマン、編集次長を経て、現在、フォトジャーナリストとして活躍している人である。
 この本の副題に「写真の嘘と真実、そして戦争」とある。
 報道写真を題材に、著者主張をしつづけようとしているものは、何であろうか。

 表紙のカバーに、遠くに新宿の高層ビル、その手前に青山墓地の木々の緑が豊に繁っている。その手前に、舗装され、ヘリポートのマークHが大きく書かれた広い空間がある。右側部分の地下を道路が貫通している。この写真を眺めながら、しばし、この場所は、どこだろうか、考えてしまった。六本木トンネルの上らしい。車ではよく利用する六本木トンネルであるが、都心のこのような場所に米軍のヘリポート基地があるとは想像もつかなかった。この基地に接して星条旗新聞社があるためであろうが、赤坂プレスセンターと呼ばれているらしい。

 北朝鮮から提供された横田めぐみさんのコートを着て立っている写真の合成疑惑、9.11テロ事件のペンタゴンの画像や貿易サンタービルの画像から生じる疑問、フセイン元大統領を拘束したときの写真が流された意図等々、一枚の報道写真を分析していくことによって、報道されていた事実がゆらいでいく。
 報道写真を撮る現場の取材者、視聴者の関心を惹きつけたいデスクの思惑が交錯することにより生じるメディアの落とし穴が1枚の写真からあぶりだされていく過程は、スリリングであるとともに、1枚の写真を観る者として、写真とどう対峙していくことの怖さが迫ってくる。
 中でも、衝撃的なのは、1971年沖縄返還協定批准に反対するデモの一団に襲われ、火炎瓶を浴びて巡査が死亡した事件である。読売新聞に現場の写真が掲載された。「過激派に取り囲まれた巡査部長は、めった打ちにされ、火炎瓶で火だるまになった」と説明がついている。
 読売新聞に掲載された写真が証拠となり、M氏が逮捕・起訴された。起訴状には、「M被告は炎の中に包まれている巡査部長の肩をつかまえてひきずり出し、顔を二度踏みつけ脇腹を一度蹴った」と記載されていた。
 メディアに掲載された写真が刑事裁判の証拠として使われると自由な取材ができなくなる。報道の自由・表現の自由の観点から、新聞記事をこのように使うことの是非が問題となった。
 しかし、この写真のもつ恐ろしさは違うところにあった。弁護側が、その後、同一の瞬間を撮影した16ミリフィルムを入手し、解析したところ、巡査部長を足蹴にしたとして起訴されたM被告の行為は、足で、巡査部長の服の炎を消そうとした行為であったことが判明した。無罪となるまでに、3年という期間を要していた。
 1枚の写真が編集やキャプション次第で、殺人行為とされたり、救出行為とされたりしてしまう。そして、16ミリフィルムが存在しなければ、おそらく、M被告は殺人罪で有罪なってしまっただろう。16ミリフィルムがどのような経過をたどって、弁護団が入手したのかは分らないが、相当時間を要した可能性もある。無罪となるまでの時間の長さもさることながら、この時間の長さがあることによって、16ミリフィルムが入手できたというのであれば、裁判に多少時間がかかるということも必要ともいえる。迅速な裁判がもたらすものの功罪がこのようなことにある。

 この本により考えさせられることは数多いが、著者がもっとも力点をおいているのは、米軍が使用する普天間飛行場の移設の問題である。
 日本政府は、米軍が基地を返還するので、その移転先を辺野古崎にすると説明し、この移転のために多額の資金を投下しようとしている。
 米軍の使用している普天間飛行場の滑走路は、現在は、老朽化のために波打っており、基地として継続使用するには大規模な改修工事を必要としている。辺野古崎に飛行場を作る計画は、1966年の頃からあり、マスタープランも作成されていた。
 著者は、辺野古崎への基地移転は、「実は米軍基地を統合・強化・近代化する再編計画」の一環であると主張する。(p322)
 40年という長期にわたる計画が日の目をみる、しかも、日本が多額の資金を負担してくれるというのであれば、米軍にとって、これほど、おいしい話はないのである。

 

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