« 『書店繁盛記』 | トップページ |  『風神雷神屏風』  »

2006年9月24日 (日)

『天使と罪の街』 

○2006年9月24日(日) 
    『天使と罪の街』 マイクル・コナリー 講談社文庫

 少し前のことであるが、SRの会(Sealed Roomの会=ミステリの愛好者の全国組織)のT会長から、このブログにあるミステリについて書いた内容が、ネタばらしをしていると、お叱りを受けてしまった。
 私としては、ミステリの紹介をするときの鉄則を守っているつもりでいたので、いささかショックを受けてしまった。いわれてみればそうかなとも思う反面、あれはあれでいいのだろうという気持ちも強かった。
 そうは思いながらも、マイクル・コナリーの『天使と罪の街』について書きだして、はたと手が止まってしまった。最初の場面を書かなければ、この小説の面白さを語ることができなくなる。しかし、それをばらしてしまうと、この小説のインパクトがなくなってしまうことも事実である。エド・マクベインの87分署シリーズのあるミステリを例にあげようかと思ったが、それでもネタばらしになってしまう。
 とりあえず、ここでは触れないということにした。読んでのというより、読み始めてのお楽しみにしほしい。

 これを書いているときに、佐野洋が、乱歩賞を受賞した『東京ダモイ』を取り上げている朝日新聞の夕刊の時評を読んだ。
 乱歩の『氷』シベリアで発展」として、乱歩のエッセー『続・幻影城』に触れながら、『東京ダモイ』をほめている。これ以上、佐野洋の時評に触れるとネタばらしになりそうなので触れないが、佐野さん、これってありなんでしょうか?
 
 この本は、近世の異色の画家と同じ名をもつボッシュが主人公のミステリであるが、「我が心臓の痛み」で、心臓移植を受けたテリー・マッケブも登場する。
 「我が心臓の痛み」は、クリント・イーストウッド主演で映画化されたが、コナリーはマッケブのこの事件が映画化され、イーストゥッドが主演をしたという話を巧みに取り込んできたりと、コナリーの遊び心ににやりとしたりしてしまう。

 ”イーストウッドはテリーより二十歳は年上だったのだが、映画はひいき目に言っても、ささやかな成功しかおさめられなかった。”(p25)

 ボッシュは、昔の仲間の不審な死について調査を開始する。この話と並行して、ネヴァダ州の砂漠で発見された多数の他殺体の捜査のために呼び出されたFBI捜査官レイチェルの物語が書かれている。
 レイチェルは、行動科学課に所属していた当時、担当していた事件を調べていた新聞記者と寝たために、辺境の地に左遷されていた。連続猟奇殺人事件が、レイチェルのかつての上司であったポエットの犯行ではないかと疑いが生じたので、捜査現場に呼び出されたのである。
 この2つの事件が次第に結びつき、二転三転していく。
 但し、この本を読む前に、扶桑社文庫から出ている『ザ・ポエット』を読んでおいた方がいいかもいしれない。と言い出せば、『我が心臓の痛み』(扶桑社文庫)も読んでおいたらと、言ってしまいたくなる。ここらあたりが、シリーズ物の面白さともいえる。

 コナリーのボッシュ・シリーズも、レイチェル・ウオーリングの登場で、新たな展開が予想される。次作の刊行が待ち遠しいところである。
 
 「行動課科学課の捜査官は二種類にわかれる、とレイチェルは以前から思っていた。最初のタイプは、”変換者(モーフ)と呼んでいるものだ。そのタイプの捜査官は、自分たちが捕らえようとしている男や女ときわめて似ている。どんな事件であっても自分たちの心に届かないようにできる連中だ。彼らは連続殺人犯のように、事件から事件へと移っていくことができる。邪悪なるものの正体への恐れや疚しさや、それについての知識に引きずられることなく。」
 「レイチェルが第二のタイプを”共感者”と呼んでいるのは、彼らが恐怖をそっくりそのまま自らの裡に取り込み、そこにとどめているからだった。それはみずからを熱くする篝火になった。彼らは、その篝火を用いて、自分たちを鼓舞し、職務を果たすのだ。」(p142)
 
 捜査官ではないが、私の周りにも、このような2つのタイプの人間がいる。どちらが、いいともいえない面があるのだが、「レイチェルの見方では、彼ら(共感者)の方がよりよい捜査官だった。というのも、悪党をとらえ、事件を解決するためには、彼らは限界を超えていこうとするからだ。」ということになるらしい。(p142)
 しかし、世の中で認められていくのは、第一のタイプである。
 ”変換者”という訳語はしっくりしないところがあるが、この区分けのしかたには共感するところ大である。

|

« 『書店繁盛記』 | トップページ |  『風神雷神屏風』  »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『天使と罪の街』 :

« 『書店繁盛記』 | トップページ |  『風神雷神屏風』  »