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2006年10月 1日 (日)

 『風神雷神屏風』 

○2006年10月1日(日)
        『風神雷神屏風』 出光美術館

 帝劇ビルの出光美術館に着いたのは、開館時間の午前10時をほんの少し回っていた。まだ、5分も経っていなかったのだが、美術館に通じるエレベーターのある入り口から長蛇の列が出来ており、最後尾は帝劇ビルを半周ほど回ったところになっていた。
 俵屋宗達、尾形光琳、酒井包一の琳派の画家三人の『風神雷神図屏風』が、昭和15年以来、66年振りに一堂に会した展覧の場も、今日が最終日である。
 江戸初期の宗達が描いた風神雷神の屏風絵を京都の建仁寺に献納されている。二曲一双の金屏風の右手には、風袋を両手に持ち駆け抜けようとする風の神に対し、左手には、雷の神がエイヤッといわんばかりに、身構えている。天空の2つの神の姿は奔放で、神々しくも見えるし、見ようによっては、妙に人間らしくも見えてくる。
 江戸中期の絵師である尾形光琳は、80年後、京都で、宗達の『風神雷神図屏風』(国宝)に出会い、その図柄を模倣した風神雷神の図を描いた。光琳の『風神雷神図屏風』は、現在、重要文化財として、東京国立博物館に所蔵されている。
 光琳の屏風自体の寸法は、宗達の屏風より、若干大きいということであったが、その絵自体は、宗達の絵を正確に写し取ったものであるとされていた。今回の展示では、光琳の絵のトレースを宗達の絵に重ね合わせ、2つが寸分のちがいなく重なり合っていることを示す写真が展示されていた。図録には、光琳の絵のトレースが宗達の絵と重ねて見ることができる。
 これだけを見比べると、模倣というよりも、模写にすぎないようにみえるのだが、実物を見比べると、図柄が同じだけで、明らかに、その世界が異なっている。光琳の風神は、宗達の黒っぽい身体に対し、きれいな緑色となっている。緑の身体に、白い風袋の風神に、対する雷神は、白い身体に、緑の衣がたなびいている。宗達の荒々しい世界から、光琳の様式的な美の世界となっている。
 光琳の時代から100年後、幕末期の絵師である酒井抱一は、光琳の屏風絵に触発されて、『風神雷神図』(出光美術館所蔵)を描く。抱一は、宗達の絵を見る機会はなかったらしい。そして、構図、色彩は、光琳の絵の模倣であることは明らかであるが、抱一の絵のトレースを光琳のそれとは重なっていない。
解説によれば、縮小模写の機会はあったのだろうが、正確な寸法取りはできなかったためであろうとする。しかし、それだけに、オリジナル性が高くなっているともいえる。

 今回の展示を、どうしても見ておきたかったのは、模倣と創造という観点から著作権というものを考えるというよりも、肌で感じ取ってみたかったからである。今、著作権の保護期間を50年から70年にすることの文化的な意味を考えたかったからである。
 この3つの「風神雷神図」は、70年、100年という時代を経ての模倣であるので、現在の著作権法の考え方からしても、著作権侵害という問題は生じない。しかし、この3人の琳派といわれる絵師の仕事は、明らかに、模倣という世界が創造の世界へと広がりを示している。
 宗達の絵を眺めていた2人連れが、「光琳がパクッた元の絵か」というような会話をした。パクリという言葉には、安易な真似、借用という響きがある。ちょっと、違うだよなと内心で思いながらも、それをどのように反駁したらいいのだろうかと、考えていた。

 手塚治虫の初期のマンガは、ディズニーのマンガの模倣であった。その後、ディズニーの「ライオンキング」が手塚の「ジャングル大帝」の模倣ではないかと騒がれたことがある。手塚がこのことをとやかくいわなかったのは、初期の頃の模倣を自覚していたのであり、逆に、模倣されたことに、誇りを覚えていたのではないだろうか。
 現在のディズニーの流儀は、少しでも、問題がありそうなことがあれば、すぐに、弁護士からの警告の文書が届く。今であれば、手塚はディズニーのマンガの模倣をしたとして、摘発され、放逐されていたに違いない。 
 財産権としての著作権の要素が強くなれば、文化的な躍動感が失われていく。その昔から、日本には「写し」という世界があった。確か、茶碗でも、「写し」が、重要文化財となっていたものがあったような気があする。
 技術の進歩により、コピーが容易にできることになったことが、安易な模倣をが多くなった。創造性よりも、財産性の方が優位な世界になっている。
 「写しの世界」が尊ばれた頃の人々の方が、本当の美を知っていたのではないだろうか。
 
 

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