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2006年11月14日 (火)

『眼を開く』

○2006年11月14日(火)
   『眼を開く』 マイケル・Z・リューイン 早川PMB

 私立探偵アルバート・サムスンが久方ぶりに戻ってきた。10数年ぶりの再登場である。
 リューインは、この間、「探偵家族」シリーズのようにユーモア・ミステリや野球の創世記の頃を舞台とする『カッティングルース』のような小説を出していた。
 リューインには、私立探偵アルバート・サムスンを主人公とするシリーズのほかに、刑事リーロイ・パウダーを主人公とするシリーズがある。『刑事の誇り』など、ハードボイルドなパウダー物は、私のお気に入りだったので、もう、読むことはないかなと思っていただけに、『眼を開く』を見たときは嬉しかった。
 
 依頼者の名を明かさなかったために、私立探偵の免許取り消されたサムスンであったが、ようやく、免許を再発行された。依頼者の名を明かさなかったのは、私立探偵としてのコードを守り通した証なのだが、探偵家業ができないサムスンは、食堂を経営する母親ポジーの家で、鬱々とした生活を送っていた。家には、別れた妻との間の娘サムも同居している。
 探偵業の再開のよろこびにひたるサムスンのもとに、早速、弁護士から依頼を受ける。連続殺人事件で逮捕された容疑者は、サムスンの幼なじみであるミラー警部が報奨金目当てに、罠にはめたのではないかというのである。
 一方、サムスンの住む地域では、何者かによる破壊行為が続いており、ポジーも自警団率いているという。
 
 このように、話自体の展開は、結構、ハードボイルドなのだが、サムスンのロマンスがユーモラスに描かれ、「探偵家族」シリーズの延長にあるようなミステリとなっている。
 若干、がっかりとしながら読み、最後も中途半端な解決のようにみえたが、読み終わった後に、再度、振り返って考えると、これが、リューインの大人の味というものなのかなと思い出した。
 ここでは正義が実現されることはないかもしれないが、真実は説き明かされる。ただ、その真実を知るのは主人公のサムスンの胸の内である。そして、娘やミラー警部その他の登場する人物に、それぞれの真実があるのだが、各人の心の内部に封じ込められ、周囲に明かされることはないのである。
 これは、真実だと、分ったような正義を振りかざす手合いが横行する世の中に対し、リューインは、それは、ちょっと違うのではないかと小さな声で異議をささやいているのである。

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