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2006年12月 8日 (金)

『ヤクザが消滅しない理由』 

○2006年12月8日(金)

  『ヤクザが消滅しない理由』   デイビッド・E・カプラン アレック・デュプロ 不空社

  この本の副題に「江戸時代から今日までヤクザビジネスの正体」にあるように、2人のアメリカ人ジャーナリストは、日本の社会から、ヤクザが消滅しない理由を 日本のヤクザの歴史を通して解き明かしている。 現在でも、政治家、経営者、スポーツ選手そして芸能人らとヤクザとの関係が時折問題となる。文字通り、時折、表面化するに過ぎないので、ほんの偶発的な事件と、捉えがちであるが、この本は、日本社会に構造的に存在するヤクザ、右翼、政治家のもたれあいの構造をヤクザが生まれた江戸時代から今日に至るまで、ヤクザと右翼や政治家が相互に利用しあっていた歴史を概観する。 ここに挙げられる事件やエピソードの多くは、新聞や雑誌等のメディアで報じられたもので、私の記憶の底にもあるものが多々あるのだが、通史的に、整理されているこの本を読むと、あらためて、ヤクザが日本社会に根をおろし、消滅しない理由が理解できる。とりわけ、民主化された戦後において、ヤクザの世界が強大な力をもつに至った経緯は、是非とも知っておくべきことである。 そういった意味では、この本は、日本の戦後史ともいえる。 ”日本では一〇万人のヤクザが活動、二五〇〇の「一家」や連合にきちんと整理されて。一方、日本の二倍もの人口を持つアメリカでは、司法省が見積もっている組織メンバーはたったの二万人。”(P9)  1976年当時のデータであり、正規のヤクザというものまおかしな表現だが、数的には構成員の数は減っていると思われるが、その周辺には、企業舎弟といわれるような企業をかくれみのとした活動もあり、闇の社会と企業の関係も灰色のものも多々存在し、時折、事件の影に彼らの存在が見え隠れしている。  ”戦後数多くの人物が黒幕となったが、もっとも有名なのは全員が巣鴨拘置所の元住人だったA級戦犯トリオ、児玉誉志夫、笹川良一、岸信介であろう。ともに戦前の超国家主義者であるこれら三人の人物は、右翼を時代の流れに即応したものに変え、実業界や与党・自民党を動かすのに利用した。”(p109)  ”満州時代の岸岸の仲間たちの多くが岸の世話で官職についていた。五七年から六〇年の三年間に、岸は自民党内で極右の立場を強め、憲法への反感をあおり続けていった。”(p116)  60年安保の時代も、70年安保の時代も遠い昔となり、ロッキード事件も記憶の彼方に沈みつつある。 この本を読みつつ、現在の日本、そして我々の生活が、日本の戦後史の一画を担っていているのだということを改めて認識させられた。 ”朝鮮(韓国)人と日本人はいまでもはげしい敵愾心を持ち続けており、それは少なくtも、1985年に玄洋社の社員が朝鮮の王妃を暗殺したときにまでさかのぼることができる。この事件が、朝鮮侵略を東京に命じさせる口実になった。そして日本人たちは、連合国軍に敗れるまでこの地を立ち去ろうとしなかった。” (p357) 日本の伝統といわれるものの多くは、明治から昭和にかけて形作られてきているのだが、それが、あたかも古来、脈々としたものであるかのような錯覚が生じている。 日本と朝鮮の関係も、豊臣秀吉の朝鮮侵攻にさかのぼる必要があるのかもしれない。秀吉が朝鮮に侵攻したことは歴史の教科書で覚えたが、侵攻した理由について何が書いてあったのかよく覚えていない。  ”覚せい剤を発見したのは日本の科学者であるとされている。その結果、日本人は50年間にわたってドラッグ問題に耐えてきた。 「日本は覚せい剤を必要とするタイプの社会なのだ」と、東京生活が長いある人物は述べた。 「生活は単調なのだが、ペースはとても速い。それで人々は生活を継続するため、覚せい剤を使用するのだ」 (p382) ここまでいわれると、はてなという気分になってくる。ただ、兵隊の志気を鼓舞するために、日本の軍隊が覚せい剤の使用を勧めていた。ヘロイン等の麻薬に比して、覚せい剤の使用に対する違法性の意識が薄いのは一般的に常用されていた伝統がもたらしたといえるのかもしれない。 細部は別として、著者が指摘するヤクザ、右翼、占領当時の米軍を含む政治家たちのもたれ合いの構図がみえてくる。そして、現在もまだ、その構図を引きずり続けている。 戦後体制の一掃を唱えて、憲法改正を使命とする首相は、祖父の岸信介の悲願を実現したいとしている。優等生の顔をして、無邪気に話す首相のもつ歴史感がどこにあるのか見えないだけに、憲法の改正は戦後体制の固定化に思えてしかたがないのだが、どうであろうか。

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