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2006年12月24日 (日)

『再起』

○2006年12月24日(日)
       『再起』 ディック・フランシス 早川書房

 SRのT会長から、ディック・フランシスの新作『再起』が面白かったというメールがきた。そして、小説を書いているのはディック・フランシスの妻のメアリであるといううわさがあったが、2000年にメアリが亡くなった後に、発表された『再起』によって、ディック・フランシス自身が書いていることが証明されたと書かれていた。
 私は、すぐさま、冗談半分に、現在、ディック・フランシスの息子のフェリックスが書いたということも考えられるのではないかと、メールを返した。
 ディック・フランシスのミステリは、妻であるメアリの代作ではないかというのは、フランシスの書斎を訪れた日本人カメラマンの書いたものを読んだことがある。その根拠は、確か、フランシスが書斎にあるタイプライターをうまく打つことができなかったことにあるとしてたと思う。

 フランシスのミステリの面白さは、冒頭の一章に詰め込まれている。最初の一章に、主人公の職業、性格そして、主人公のおかれた状況が英国人特有のシニカルな筆致で、これから起きる事件の予兆、伏線を散りばめられていて、一気に物語りに引き込まれてしまう。
先月、発売された『ミステリの名書き出し100選』(早川書房)では、北上次郎は、フランシスのミステリにはレースのシーンが少ないとして、レースの場面で始まる『本命』のレース・シーンの書き出しを選んでいる。
 自分であれば、どの作を選ぶであろうか、沢山ありすぎて迷って決めきれないかもしれない。

 『再起』は、このような書き出しで始まる。

 ”悲しいことだが、競馬において、死はめずらしくない。だが、ある午後だけで三つもの死となると充分にめずらしく、たんに片眉を上げるだけではすまない。馬の死がそのうち一件だけとなる、地元警察が大急ぎで競馬場に駆けつけるのに充分だ。”(p5)

 この書き出しだしを読むだけで、ニヤリとして、次に何がくるのだろうかと惹きつけられてしまう。主人公は、障害馬レースの転倒事故により、片腕を失った元騎手で、現在は調査員をしているシッド・ハーレイである。
 ディック・フランシスのミステリは40冊目であるが、4度目の登場となるシッド・ハーレイであるが、第1章で、シッド自身のことが紹介され、事件の伏線となる騎手と調教師が罵倒しあう場面が登場し、シッドの現在の恋人にさりげなく触れる。
 
 第1章を読んだだけでも、ディック・フランシス健在なりとわくわくして読み終えた。
 シッドの宿敵となってしまった別れた妻ジェニイも登場し、窮地に陥ったシッドの闘いと、見せ場もたっぷりである。
 読み終わって、86歳になっているディック・フランシスがこれだけ迫力のあるものを書いたということに驚嘆しながらも、冒頭の疑問が再燃してくるのだが、野暮な勘ぐりはやめて、ただひたすらこのミステリを楽しめばいいのであろう。

 最後に、このミステリの訳者が菊池光から北野寿美江となった。前作までのすべての作品を訳していた菊池光が2006年に亡くなっている。合掌。

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