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2007年2月15日 (木)

『ヒート・アイランド』

○2007年2月15日(木)

   『ヒート・アイランド』垣根涼介 文春文庫  

 早稲田大学の学生であった大藪春彦の『野獣死すべし』が江戸川乱歩の推薦により、雑誌「宝石」に掲載されたのは1958年のことである。「ハードボイルドの野心作と喧伝された『野獣死すべし』は、その面白さは1950年代という時代とは隔絶した異質ものであったし、スピレーン風の銃と暴力に満ちた小説がハードボイルドであるという誤解を世間に振りまいたという意味では、功罪をもつ小説であった。 2004年、『ワイルド・ソウル』で、第5回大藪春彦賞を受賞した垣根の『ヒート・アイランド』を読み、垣根が大藪春彦賞を受賞するにふさわしい作家なのだということを再確認した。 更に、21世紀という日本の社会が、ようやくというか、ついに大藪春彦の世界に追いついてしまったのだという複雑な感慨も湧いてきた。  アキとカオルは、渋谷のストリート・ギャングを組織して、月に3回、ファイト・パーティを開いて、稼いでいる。ルールはワンラウンド無制限。寝技、立ち技にともにオーケイ。目潰しと睾丸打ち以外は何でもありだ。相手が失神、またはギブアップした時点で試合は終了する。 柿沢、桃井、折田は、表に出すことができない金を強奪することを仕事としており、大阪の広域暴力団『松谷組』が経営する六本木の非合法カジノバーを襲い、8936万円を強奪する。折田は、この仕事を最後にしたいとして、2人と別れる。 六本木通り沿いに、南青山7丁目から六本木6丁目までの渋谷以南を仕切っている『麻川組』は、以北を根城とする『全関東青龍会』と互いに牽制しあっていた。関東進出を狙っていた『松谷組』は、地場の利権を温存してやるとして博徒系暴力団『麻川組』を傘下に収め、『麻川組』のシマ内の六本木にカジノバーを開いていたのであった。 折田は、仕事の帰りに寄ったバーで、狼藉をはたらく若者を力で押さえたことから、分け前の3200万円を入れたボストンバッグを奪われてしまう。 ボストンバッグの中をみたアキは、暴力団か非合法組織のブラックマネーであると直感する。 金を取り戻そうと動く松谷組と柿沢達、築いた組織を守ろうとするアキたち、それに、松谷組と対立する全関東青龍会が、それぞれの思惑をもって、渋谷の街中を探り回り、策をめぐらす。  垣根は、アキとカオル、それに、柿沢と桃井たちの生き方をストイックに、丁寧に、魅力的に描いているので、どちらにも肩入れをしたくなり、結末をどう締めくくるのかが気になって、一気に読んでしまった。  おりしも、2月14日、指定暴力団住吉会小林会系幹部が白昼に射殺されたのに端を発した都心の連続発砲事件の記事が掲載されていた。 東京・六本木周辺を縄張りとしてしていた国粋からから利権を借り受け、賃料を払っていた小林組に対し、山口組の傘下に入った国粋会が縄張りの返還や賃料の値上げを要求するなど対立し、抗争に至ったのという。  この抗争は和解で沈静化したというのだが、『ヒートアイランド』が、東京進出を図る関西系暴力団と対立する東京の暴力団という構図を、一見、荒唐無稽な活劇小説に仕立てているようにみえながらも、リアルさをもつのは、垣根の社会を見る目の確かさからであり、『ワイルド・ソウル』の面白さに通じている。

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