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2007年3月 7日 (水)

 『本業失格』 

○2007年3月7日(水)
       『本業失格』 松浦弥太郎 集英社文庫

   南青山にある古書店「カウ・ブックス」で、和田誠の『倫敦巴里』を衝動買いしてしまった。初版は、1977年とあるが、購入したのは、9版で1980年発行となっている。
 和田誠が雑誌『話の特集』などに書いていたパロディ風の絵や文章をまとめたものである。ページを開くと、「殺しの手帖」とあり、手書きのどくろマークのラベルを貼ったビンが並んでいる。次のページには、「これはあなたの手帖です」「この中 どれか 一つ二つは すぐ今日 あなたの殺しに立ち」「いつか あなたの殺し方を変えてしまう」とあり、左のページには、拳銃の写真が載り、リヴォルヴァー拳銃の商品テストの結果が描かれている。「毒入りそうざい」の作り方があり、「殺しの中で考える」と殺しの考察篇などもある。
 『暮らしの手帖』のパロディである。花森安治が創刊したこの雑誌は、戦後の貧しい生活を脱し、豊かな生活を確実なものにしたいとする人たちを読者としていた。花森安治のパーソナリティと厳正に、商品テストをするためには、雑誌の刊行に不可欠な収入源である広告を掲載しないとする『暮らしの手帖』のポリシーは、社会的な存在感と影響力をもっていた。
 「殺しの手帖」が『話の特集』に掲載されたのは1966年のことである。
 「パロディって、本当に権威を引きずり下ろすくらいの力があるものをそうよぶんじゃないかと思うんだ。それに比べれば俺のやっていることなんか、やっぱりモジリ程度なんだなあ。」と、和田誠は『倫敦巴里』の後書きでいっている。
 『暮らしの手帖』は、1966年当時、商品テストだけではなく、日常の生活の暮らしを通して、生き方を問う雑誌として、カリスマ的な権威をもっていた。それゆえに、「殺しの手帖」は、和田誠らしい遊び心に富んだ『暮らしの手帖』のパロディとなっていた。
 
 バブル、そして、バブル崩壊と時代は変わり、いつしか、広告料を収入源とする無償のインターネット情報や無料で配布される雑誌がもてはやされるようになり、雑誌は販売部数を激減してきた。『暮らしの手帖』もしかりで、書店でも見かけることが少なくなってきた。
 広告料に依存するネットや雑誌の情報がまっとうで、公正なものであり続けることは、あり得ないということは少し考えてみればわかるのに、である。

 松浦弥太郎の『本業失格』を読み始めたその日、カウブックスで手に取った和田の『倫敦巴里』との出会うという偶然、奇縁の面白さ、これこそ、本との出会いだなと思いながら、『倫敦巴里』を衝動的に買ってしまった。

 カウブックスを経営している松浦は、昨年の10月に、『暮らしの手帖』の編集長になった。
 カウブックスの本店は中目黒にあるのだが、まだ、行ったことはない。事務所の近くにある南青山にある支店は、カフェのレジの横にある2坪もあるかないかの小さな古書店である。植草甚一、小林泰彦、久保田二郎など、私好みの本が並んでいるので、ランチを食べた帰りにぶらっと寄る。
 ある日、書棚に並んでいた『くちぶえサンドイッチ』という題の松浦のエッセイ集が気になって購入した。レジにいた店員から、中目黒にあるカウブックスの本店は面白いですよといわれて3年になる。
 松浦は、18歳のときに、アメリカに渡り、書店めぐりをしたことから、本の面白さにとりつかれ、その後、マンションの一室で古書店を始め、トラックで本を販売する移動書店をし、2002年にカウブックスを開業した。
 『本業失格』は、松浦が、1997年頃から2000年にかけて書いたエッセイ集である。アメリカや神田の古書店の話がでてくるのだが、松浦は本の面白さにとりつかれているだけではなく、本をとりまく人たちとのつながりを楽しんでる様子が伝わってくる。
 ニューヨークの古書店を訪れたときには、ポラロイドカメラで店主の写真を撮っては、店主にあげたり、奥只見にある「たもかぶ本の街」に入り込んで本をあさる話などと、面白い話が、軽妙に語られている。
 
 しかし、松浦は、古書マニアが講じて古本屋になったのではない。
 松浦は、「僕は洋書和書問わず、世界中から最低で最高の本を集めて売ることに関して誰にも負けない」と明言するように、カウブックスに並んでいる本は、ちょっとポップで、サブジャンルぽいながらも、筋目正しい生活感に溢れる本が並んでいる。
 『暮らしの手帖』の編集長になった著者が『本業失格』というのも、キャッチを使うことに奇異を感じる向きがあるかもしれない。本業以外に面白いことがたくさんあるのだから、本業にとらわれない生き方があるのだという著者のメッセージであり、『暮らしの手帖』編集長の編集方針の宣言ととれる。
 そういう意味では、松浦の『くちぶえサンドイッチ』は、『本業失格』よりも、生活感覚の面白さに溢れていて、松浦の些事にとらわれない生活感覚溢れた楽しいエッセイ集である。
 

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