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2007年4月14日 (土)

『狼花 新宿鮫Ⅸ』

○2007年4月14日(土) 『狼花 新宿鮫Ⅸ』 大沢在昌 光文社

 私の住んでいる街は、青山にある事務所まで電車で1時間近くかかる郊外にある。南口の駅前には、バス停やタクシー乗り場のあるロータリーがあり、スーパーなどの大規模小売店が2つある。大規模といっても、大きさとしては中規模の店舗施設であるから、郊外にあるの街としては大きくはないが、さびしいというほどの街ではない。
 北口にもバス停があるのだが、駅から少し離れたところにある。バス停や北側に広がる住宅地へ帰る人たちを客とする居酒屋がある。都心でも目にするチェーン店もあるが、個人経営の小さな店もかなりある。しかし、これといって、お薦めの店があるというわけでもない。
 このような街にも、ここ数年キャバクラなどに誘う客引きが目につくようになってきた。10年近く前に開店した当時から、顔なじみの居酒屋に、ときおり寄るのだが、その店に行く手前の四つ辻に客引きが立っている。聞かないふりをして、彼ら、彼女らの誘いの言葉をかけられるだけで、気分が萎えてくる。
 2-3年前は、2-3人の男が立っているだけで、格別、声をかけられることもなかったのだが、ここ1年くらいまえからであろうか、7-8人の男女がたむろって客引きをするようになり、通るたびに、声をかけられるようになった。
 駅前にある書店で、書棚を眺めて、裏の出口を抜けて向かうのだが、書店を出たあたりには、中国人の女の子がたどたどしい日本語で、「マッサージ、どうですか」と誘ってくる。
 東京都や警視庁は、風俗営業や犯罪がはびこる歌舞伎町など繁華街の浄化を進めていて、歌舞伎町のイメージも変わってきたらしい。歌舞伎町での規制が厳しくなり、風俗営業がなくなるわけではない。歌舞伎町を追い出された者たちは、郊外へ、地方都市へと場所を変えて、営業を続けている。
 静かであった郊外の街も、ミニ繁華街化し、猥雑な街になってしまった。遠くにあり、こちらから近づかない限り、縁のなかったものが、身近の日常的な存在になってしまった。

 アルミ製の柵やマンホールの蓋などの盗難のニュースも報じられることが多くなった。オリンピックを目の前にし、金属の需要高まっている中国に、盗まれた金属が流れているという。
 店舗から、貴金属が大量に盗まれる事件も目につく。外国人による犯罪であるといわれているが、大量の盗難の背景には、盗む者、盗品を引き取る者、国外に輸出する者等のシステム化、分業化があり、盗品を大量に捌く闇の市場の存在がある。日本の裏社会の協力なくして、闇市場を運営はできない。裏の社会も、日本の社会と同様に、資本主義化、グローバル化しているのである。

 大沢在昌の新作『狼花 新宿鮫Ⅸ』は、盗品を大量に捌く闇の市場の話である。
 新宿中央公園で、アフリカ系アフリカ人同士の喧嘩があり、二人が逃げ、けがをした一人が大麻を所持していた。喧嘩の背景に、大麻取引があるとみて捜査を続ける鮫島は、盗品の闇市場の存在を知る。
 2003年4月、警視庁は、急増する外国人犯罪とそこに結びつく日本人暴力団の摘発を目的として、組織犯罪対策部を設置した。公安部外事一課の課長補佐として、順調に出世の階段を登っていたはずの香田が理事官として、組対部に移ってくる。
 中国人の明蘭は、日本で金を貯めて、北京の大学にいくことを夢であったが、その夢も実現しそうになかった。深見は、明蘭の人柄を見込み、泥棒市場の運営を任せていた。

 ”暴力団には長い歴史がある。壊滅を掲げながら、警察は暴力団をこの社会から完全に駆逐できずにきた。暴対法の施行などが彼らの影響力を弱め、勢力図の再編をうながしたのは事実だが、一方で不法滞在外国人の増加と組織化が、犯罪の発生率を高め、検挙率を下落させている。
 当初、日本暴力だと外国人犯罪者は、その犯罪のフィールドを棲み分けていたが、対立を経て、互いに利用しあう最悪の環境が整いつつある。
 こんなことならば、暴力団だけに目を光らせていた過去のほうがよほどましだったと誰しもが考える。そこでまず、外国人犯罪者の徹底した取り締まりをおこない、関連する日本人を検挙していこうというのが、組対部を新設した目論見なのだ。”
                                        (p107)
 鮫島は、香田が、日本最大の暴力団稜知会に、泥棒市場を乗っ取らせ、コントロールすることにより、外国人犯罪集団の動きを把握し、外国人犯罪の排除を図ろうとしていることを知り、対立する。
 明蘭は、深見の自分に対する愛を感じながら、稜知会の幹部毛利を愛するようになる。稜知会が泥棒市場の支配をしようとしていることを知った深見は、泥棒市場と明蘭を守ろうと、動き出す。

 大沢は、鮫島と香田の対立の図式から、外国人犯罪、そして、政治権力と暴力団とのもちつもたれつの関係をあぶり出そうとしているのだが、図式的な観念論のぶつけあいとなり、小説としての興趣がそがれてしまう結果になってしまっている。
 大沢も、鮫島も年を重ねることによって、迷路に陥ったような気がする。鮫島と晶の行く末も気になるが、新宿鮫シリーズも行く末も気になることである。

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