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2007年9月18日 (火)

『天使は容赦なく殺す』

○2007年9月1日(水)『天使は容赦なく殺す』 グレッグ・ルッカ 文藝春秋

 グレッグ・ルッカの新シリーズが出たというので、通りかかった大型書店に入り、平台で探したが見つからない。
 まだ、書店にでていないのかなと思いだしたときに、並べられた本に埋もれているのを見つけた。
 風に吹かれた金髪の髪に、アラブ風のコートをまとい、頸にはスカーフをし、拳銃を握った若い女が劇画調に描かれている。後書きによれば、ガン・アクション・コミック『Black Lagoon』で人気の広江礼威の画だという。
 このような装幀にすると若い読者をつかむことができるのだろうかというおじさん風な素朴な思いにとりつかれるのだが、太宰治の代表作「人間失格」の表紙を、漫画「DEATH NOTE」で知られる小畑健のイラストにした集英社文庫の新装版が7万部も売れているという話もあるので、とにかく中味次第と手にとってレジに向かった。
 講談社文庫から出ているグレッグ・ルッカのボディガード、アティカス・コディアックのシリーズは、ハードなテーマを正面に据えたハードなエンターテイメント・ミステリであるが、文藝春秋からでた新シリーズは、英国情報局SISの特務課首席特務官、タラ・チェイスが主人公である。タラの職務は、国外での非合法工作、すなわち暗殺である。
 
 イスラム過激派HUMのテロリストがロンドンの地下鉄の主要な三線に同時に放火し、死者は300名を超えた。イギリスは、報復のため、HUMの宗教指導者ファウドの暗殺を計画する。暗殺を命じられたチェイスは、イエメンのモスクに潜入し、ファウドを殺害する。
 白人女性のチェイスが中東に単身潜入すること自体荒唐無稽な話なのだが、370ページの本の中途の200ページあたりで、チェイスは、あっさりとファウドの暗殺に成功してしまう。
 読み手としては、イエメンに単身で潜入したチェイスが監視の目をかいくぐってモスクに潜入するあたりのサスペンスをじっくり楽しませてもらいたいのだがと思いながら、ページをめくると次なる展開が始まる。
 暗殺の任務に成功したチェイスを待ち受けていたのは、危うい均衡を保っているサウジアラビアと西欧の関係が暗殺により崩壊の危機という冷酷な国際政治の世界であり、チェイスをその皿に載せて差しだそうというのである。
 チェイスを守ろうとする上司クロッカーの存在がいるあたりは、フリーマントルのスマイリー物とはひと味違うところであるが、その展開はやはり、劇画風である。
 
 シリアスなテーマをもつアティカス・コディアック・シリーズは、『耽溺者(ジャンキー)』、『逸脱者』と、主人公の内なるものが外界との軋轢によってかなりぎりぎりの世界にはまり込んできていた。ルッカとしては、劇画風の小説で新味を出そうとしているのだろうが、このシリーズが成功しているかについては、次作『Private War』を読んでの評価となるであろう。

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