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2007年10月11日 (木)

 『沈底魚』

○2007年10月11日(木)
       『沈底魚』 曽根圭介 講談社

 本年度の乱歩賞の受賞作である。
 乱歩賞の受賞作で、面白さに引き込まれて、一気に読んだという記憶は始めてのことかもしれない。
 新人作家の一般公募というこの賞の受賞作品は、よくも悪くも、新人らしい青臭さや、ぎこちなさが目につく。読みながらも、ここらへんの描写はちょっと違うのではないか、自分が書いているのであればこう書くのにな、という思いをもって読んでいることが多いのだが、この本を読んでいる最中、乱歩賞の受賞作であるということを忘れて読んでいた。

 「沈底魚」とはスリーパーのことである。スリーパーとは、何年もの間、一市民として潜伏して暮らし、指示があると工作員として活動を始めるスパイのことである。時代小説に描かれる忍者の世界では、「草」といわれている。
 手近にある国語辞書の何冊かを引いてみたが、「沈底魚」も「沈底」も載っていなかった。作者の造語なのであろうか。

 主人公の不破は、警視庁公安部外事二課に所属する刑事である。ヨーロッパとロシアを担当する外事一課に対し、二課は中国と北朝鮮を担当している。
 不破は、来日した中国国家安全部の高官、呉春賢の行動の確認をしているときに、小学校から高校まで同じ学校に通っていた伊藤真理に出会う。
 おりしも、アメリカに亡命した中国の外交官が、与党の閣僚経験もある現職の国会議員が中国に機密情報を漏洩しているという情報をもたらしたというニュースが流れる。
 東京にいる沈底魚(スパイ)が北京に機密文書(ヨコタ・ペーパー)を流している証拠として、中国側に潜入している情報提供者から、ヨコタ・ペーパーが流されてきた。
 不破の同僚の五味は、四〇代半ばで、次期総理といわれている国会議員芥川健太郎が中国の沈底魚であり、芥川の秘書をしている伊藤真理が芥川の運用者である呉春賢とのメッセンジャーであるとして、内偵をしていた。
 不破は、伊藤真理との接触を図るが、伊藤は突然消息不明となる。

 同僚や上司との確執や駆け引きがうずまく中、物語は二転三転していき、く物語が、スリリングに展開していく。不破の一人称の語りが、説明調になりがちなストーリーをうまくカバーしているのだが、エスピオナージュの小説を読み慣れていない人には分かりにくいかもしれない。
 末尾には、主要参考文献として、25冊の書籍名が並んでいる。これだけの本を読んでいると、集めた知識をひけらかしたくなるのだが、簡潔な文章となっており、その分奥行きが深くなっている。
 乱歩賞の応募要領では、原稿用紙550枚以内となっていることがいいほうに作用しているのかもしれない。

 ちなみに、ここに登場する都内で、サンシャイン水族館の外に、マンボウいる水族館とは、品川プリンス・ホテルにある水族館である。時間があったら、マンボウを見に行きたくなった。
 

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