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2007年11月15日 (木)

 『犯人に告ぐ』

○2007年11月15日(木)
      『犯人に告ぐ』 雫井脩介  双葉社

 2004年の第7回大藪春彦賞を受賞した作品である。
 この賞を受賞した小説は当たりが多い。しかし、気になりながらも購入したのは2005年で、刊行されてから1年近く後であった。当然、ハードカバーの単行本である。
 そのまま積ん読状態にしている内に、書店の平台に文庫が並んでいる。どうやら映画化されるらしい。
 ということで、探し出して読み出した。

 神奈川県警本部捜査一課の警視であった巻島は、幼児誘拐犯「ワシ」を取り逃がした苦い経験をもっている。記者会見で、無責任な質問をする記者にキレてしまった姿を報道され、神奈川のはずれにある足柄署に飛ばされていた。
 6年後、川崎で男児殺人事件が連続して起き、バッドマンと称する犯人が、テレビ局に声明文を送ってきた。
 神奈川県警本部長となった曽根は、足柄署から巻島を呼び戻し、捜査の責任者とする。 自己主張のためにメディアを使って自らを主役に仕立て上げる劇場型犯罪には、捜査官も自らメディアに登場し、犯人に呼びかける劇場型捜査が必要だという。

     ”闇に隠れた犯人を劇場におびき寄せるわけだ。捜査側が全面的に舞台に出てくることで、巷から新たな情報提供が寄せられる可能性も高くなる。”
                                                            (p103)

 巻島は、ミヤコテレビのニュースナイトアイズに出演し、視聴者からの情報提供を呼びかける。巻島の狙いは、犯人とテレビカメラを通して、双方向のコミュニケーションを取ることにより、犯人をおびき寄せよせることであった。
 巻島の「犯人に告ぐ」言葉は、犯人にこびるように見える。

 マスコミに登場することは、周囲に様々な軋轢を生じさせる。
 視聴者やライバル局の反応、捜査情報をライバル局に流す内部の人間、模倣犯の登場と、物語は二転三転していく。

   ”あなたは根が正直者なんですよ。嘘をついたり人を出し抜いたりすることが得意な性分じゃない。だから6年前もマスコミで失敗してしまった。”
   ”でもこの世界、嘘をついたり人を出し抜いたりしなきゃいけないことも多い。あなたは無理してそれをやってる。”
                                                                    (p300)
 捜査が進展しないため、勝負を賭けようとする巻島に対する部下の津田の言葉である。

  メディアを利用しようとしても、周囲の思惑が錯綜し、ともするとメディアに飲み込まれてしまう。ここらあたりの描き方は図式的ともいえなくないが、よく描けている。
  ただ、犯人像が弱いということが瑕瑾である。
  最後の誘拐犯がこども拉致しつつ、駅の雑踏で、巻島の背に紙を貼り付けるという場面は現実的ではないし、蛇足であった。
 

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2007年11月12日 (月)

『ウオッチメイカー』

○2007年11月12日(月)
      『ウオッチメイカー』 ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

 ある人物の事情を聴取していたときである。
 素直にこちらの質問に答えていたのだが、核心部分の質問に、一瞬目が泳いだ。嘘をついていると瞬間的に確信したのだが、同席していた人たちは気がつかなかったという。確信があっても、嘘をついているとする他の証拠がない場合に、嘘だと断定するのは難しい。
 ジェフリー・ディーヴァーの新作『ウオッチメイカー』には、尋問とキネクシスの専門家であるキャサリン・ダンスが登場する。
 キネクシスとは、”証人や容疑者のボディランゲージや言葉遣いを観察し、分析する科学”である。第一段階として、氏名や住所のように真実であるという裏付けがとれている事柄を答えさせ、その身振りや姿勢、言葉の選択、返事の要旨を観察する。

 キネクシスのセミナーの講師として、ニューヨーク市を訪れたカリフォルニア州捜査局の捜査官のダンスは、研修に出席していたロン・セリットー刑事に、連続殺人事件に手を貸してほしいと頼まれ、ニューヨーク市警の元警察科学部長で、現在は市警の捜査顧問として、難事件の捜査の指揮をとっているリンカーン・ライムの自宅にある科学捜査室を訪れる。
 
 数時間のうちに連続して起きた殺人事件の犯行現場には、アンティックな置き時計が残されていた。犯行は、被害者を拷問に似た残酷な手口を綿密に計画されていた。
 ライムは、犯人が同じ時計を10個購入したことを突き止める。時間や時計に異常な執着を抱いている人物・ウオッチメイカーの殺人計画は、精巧な時計を組み立てるように、緻密で正確、しかも複雑(コンプリケーション)なものであった。
 
 派手な犯罪事件の謎を、微細な物的証拠を収集・分析し、鮮やかに推理を展開していくのがリンカーン・ライム・シリーズの魅力であるが、犯罪と犯人探しの人間的な側面に関心をもつダンスの登場は、ワン・パターンとなる兆しがみえてきたリンカーン・ライム・シリーズに新たな味付けを加えることによる奥行きが広げていこうとするディーヴァーの意図がかいま見える。
 『ウオッチメイカー』では、ライムのパートナーであるサックスは、担当した殺人事件の捜査を通じて、警察官であった父親が汚職事件に関わったのではないかという疑惑に取り憑かれ、警察を辞めたいとするストーリーを横軸に、巧緻な犯罪を次々と計画する時計師(ウオッチメイカー)との対決のストーリーを縦軸に物語が展開していく。
 複雑に展開していく物語のエンディングに向かって、鮮やかにコンプリケーションの謎が解明されていく、といえば、これぞディーヴァーの真骨頂といいたいのだが、小説としてのつながりに欠けていて、作者自身が机上に描いた仕掛けに振り回されてしまっていると感じた。
 せっかく、登場させたダンスの魅力的なキャラクターが生かし切れていない。
 ダンスが主人公として登場する次作に期待しているのだが・・・

 

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