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2007年11月12日 (月)

『ウオッチメイカー』

○2007年11月12日(月)
      『ウオッチメイカー』 ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋

 ある人物の事情を聴取していたときである。
 素直にこちらの質問に答えていたのだが、核心部分の質問に、一瞬目が泳いだ。嘘をついていると瞬間的に確信したのだが、同席していた人たちは気がつかなかったという。確信があっても、嘘をついているとする他の証拠がない場合に、嘘だと断定するのは難しい。
 ジェフリー・ディーヴァーの新作『ウオッチメイカー』には、尋問とキネクシスの専門家であるキャサリン・ダンスが登場する。
 キネクシスとは、”証人や容疑者のボディランゲージや言葉遣いを観察し、分析する科学”である。第一段階として、氏名や住所のように真実であるという裏付けがとれている事柄を答えさせ、その身振りや姿勢、言葉の選択、返事の要旨を観察する。

 キネクシスのセミナーの講師として、ニューヨーク市を訪れたカリフォルニア州捜査局の捜査官のダンスは、研修に出席していたロン・セリットー刑事に、連続殺人事件に手を貸してほしいと頼まれ、ニューヨーク市警の元警察科学部長で、現在は市警の捜査顧問として、難事件の捜査の指揮をとっているリンカーン・ライムの自宅にある科学捜査室を訪れる。
 
 数時間のうちに連続して起きた殺人事件の犯行現場には、アンティックな置き時計が残されていた。犯行は、被害者を拷問に似た残酷な手口を綿密に計画されていた。
 ライムは、犯人が同じ時計を10個購入したことを突き止める。時間や時計に異常な執着を抱いている人物・ウオッチメイカーの殺人計画は、精巧な時計を組み立てるように、緻密で正確、しかも複雑(コンプリケーション)なものであった。
 
 派手な犯罪事件の謎を、微細な物的証拠を収集・分析し、鮮やかに推理を展開していくのがリンカーン・ライム・シリーズの魅力であるが、犯罪と犯人探しの人間的な側面に関心をもつダンスの登場は、ワン・パターンとなる兆しがみえてきたリンカーン・ライム・シリーズに新たな味付けを加えることによる奥行きが広げていこうとするディーヴァーの意図がかいま見える。
 『ウオッチメイカー』では、ライムのパートナーであるサックスは、担当した殺人事件の捜査を通じて、警察官であった父親が汚職事件に関わったのではないかという疑惑に取り憑かれ、警察を辞めたいとするストーリーを横軸に、巧緻な犯罪を次々と計画する時計師(ウオッチメイカー)との対決のストーリーを縦軸に物語が展開していく。
 複雑に展開していく物語のエンディングに向かって、鮮やかにコンプリケーションの謎が解明されていく、といえば、これぞディーヴァーの真骨頂といいたいのだが、小説としてのつながりに欠けていて、作者自身が机上に描いた仕掛けに振り回されてしまっていると感じた。
 せっかく、登場させたダンスの魅力的なキャラクターが生かし切れていない。
 ダンスが主人公として登場する次作に期待しているのだが・・・

 

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