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2009年1月10日 (土)

『奇縁まんだら』

○2009年1月10日 『奇縁まんだら』 瀬戸内寂聴 日本経済新聞社

 日経新聞は、文化面とスポーツ面が面白いというと不可思議な表情を浮かべる人がいる。日経は、仕事のために読むと思いこんでいる人たちがいる。日経の読者の多くの関心は経済面と訃報の覧、文化面を読むとしても、「私の履歴書」あたりである。日経新聞の土曜版、日曜版、夕刊版など、きらっと光っている記事が掲載されている。時間があればというより、時間を作ってでも読んでご覧じろとお奨めしたい。
 一昨年から、日経の土曜日の朝刊に瀬戸内寂聴が連載している『奇縁まんだら』は、瀬戸内寂聴が出会った作家達との出会いと交流を通じて、その素顔を書いたエッセイである。 島崎藤村、正宗白鳥、川端康成、三島由紀夫等々、名だたる作家21名をとりあげている。文士、文豪というにふさわしい21名の作家である。
 「自分が小説家としての道を選んだため、その多くが作家や芸術家であったことも、自慢の一つである。今や歴史上に名を止めた偉大な作家たちに逢えたということは、宝物のように有り難い。その人たちの記憶を、老い呆けてしまわない前に、書き残すチャンスを恵まれたことも、また、望外の喜びであった。」
 1922年生まれであるから、優に80を超えた著者が、瀬戸内晴美として作家とならんとした頃からの交友録であるから、相手となる作家達は故人となっている。
 作家達の素顔や彼らの男女の関係を心の赴くままに書くの著者の文章は、優しさに満ちているが、時には、辛辣に作家達の生態を描いている。
 特に、興味を惹かれたのは、谷崎潤一郎と佐藤春夫の章である。佐藤春夫が、谷崎潤一郎の妻と不倫の関係となり、佐藤春夫と結婚するという新聞に三人連名で出した「谷崎の妻千代譲渡事件」は有名な話であるが、谷崎は、この譲渡事件の前に、妻千代と和田六郎という若い男との結婚話を進めていたというのである。
 谷崎は、妻千代の妹と深い仲になり、千代を疎んじていたのだが、千代の境遇に同情した佐藤春夫が千代と深い仲になってしまったのである。
 そして、谷崎が、千代と六郎の関係を同時進行形で、新聞に連載したのが、かの有名な小説「蓼喰う虫」であるというのである。
 その後、和田六郎は、千代と結婚をした佐藤春夫に私淑し、春夫の推挙で、大坪砂男というペンネームで世にでたという。この時、雑誌「宝石」誌に発表したのが、大坪の代表作となる短編小説「天狗」である。

 数年前、徳島に行ったときに、徳島県立文学書道館を訪れた際、館長をつとめている瀬戸内寂聴と話をしたことがある。挨拶程度のことであったが、テレビでみかける優しさ、慈愛に満ちた風情であった。
 書道館の室内の壁面に、瀬戸内寂聴の本が並んでいた。装幀の美しい本が並ぶ光景は、まぶしいほどで、丁寧に想定された本の美しさをあらためて感じた。
  『奇縁まんだら』もまた、横尾忠則の挿絵と装丁がなんともいえないいい味を出していて、手にとるだけでも心に響くものがある。
 

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