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2009年4月 1日 (水)

『嵐を走る者』

2009年4月1日

 『嵐を走る者』  T・ジェファーソン・パーカー, T.Jefferson Parker, 七搦 理美子訳  (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 昨年の北京オリンピックの開会前、人工的に、雨を降らせる実験をしているとのニュースが流れていた。開会式の当日に、雨が降る可能性が高くなった場合、北京に接近する雨雲にロケット弾を打ち込んで、ヨウ化銀を散布し、郊外で雨を降らせてしまい、北京を好天にするという。雨を降らせることにより、大気中のチリやガスが舞い上がらず、大気の状態も良くなるという。
 気象協会のwebを見ると、「雨雲を消したというのはかなりオーバーな表現で、雨雲の一部を弱くさせた、というのが実情だと思います。」としている。さらに、アメリカでは農業者向けに、雨雲を弱らせたり、雨を降らせたりという気象調節のビジネスも行われており、日本でも、東京都が都民の水がめである小河内ダム周辺でヨウ化銀を使って人口降雨を行っていたことがあるが、その効果のほどは明確ではなかったようだとも書かれている。
 
 いずれにしても、干ばつが続けば、人工的にも雨を降らせたいと考え、大雨が続けば、人口的に、晴天をもたらせたいと考えるのが人間の常ですが、気象を支配しようとすることは、神をも畏れぬ行為ともいえるのだが・・・・と話を続けると際限なくなる。

 T・ジェファーソン・パーカーの『嵐を走る者』は、幼なじみのマフィアのボス、マイク・タバレスに妻子を殺害された元保安官補のマット・ストロームソーとタバレスとの対決の物語であるが、物語は、ストロムソーが、サンディエゴのお天気キャスター、フランキー・ハットフィールドのボディガードなるところから展開する。
 フランキーは、サンディエゴ市内の各所で、生中継で、天気予報をするのだが、あやしげな男につきまとわれているというである。
 ストロムソーは、フランキーの身辺を警護している内に、フランキーが伯父のテッドとともに、人工降雨の実験をしていることに気がつく。フランキーの高祖父は、プロのレインメーカーで、フランキーは高祖父の残した資料を元に、雨を降らせようとしてしていたのである。
 「1916年、〝プロのレインメーカー〟チャールズ・ハットフィールドは、大早魅に見舞われたサンディエゴ市とモレナ貯水池に四十から五十インチの雨を降らせる契約をした。
    彼が成功した場合にかぎり、市は彼に1万ドル支払うことになっていた。彼は貯水池の近くに木製の塔を建て、独自に開発した雨をもたらす〝秘密の化学薬品〟を調合した。それからまもなく雨は降りはじめたが、いっこうにやむ気配がなく、やがて貯水池からあふれ出た水が市へ流れ込み、さらにダムが決壊して何千エーカーもの土地や家屋に被害が出た。
    ハットフィールドは報酬を受け取るどころか、追われるように街を出た。」
                                 (p127)」
 ニュース記事によれば、チャールズは、ペテン師とされていた。

 フランキーにつきまとうストーカーの後ろには、サンディエゴの利水を支配する水道電気局の幹部がおり、人工降雨が実現すると、利水という利権を失うおそれがあり、フランキーの持つ人工降雨の技術を手に入れようとしており、獄中にいるタバレスを利用して、フランキーとストロムソーを排除しようとする。

 最後は、脱獄したタバレスとストロムソーとの対決となるのだが、若干、ここまでの展開には無理があり、T・ジェファーソン・パーカーの作品としては上出来の部類にはいるとは思わないのだが、背景となっているカリフォルニアの水事情が興味深く、面白く読んだ。
 カリフォルニアは緑豊かなところというイメージがあるが、乾燥した西部では、水の量が限られていて、その多くが農業用に使用されている。カリフォルニアは、内陸のコロラド川からの取水に頼っているのだが、先に使用を始めた農民に水利権があるという。
 この小説にも、オーウェンズ・バレーのことがでてくるが、ロスアンジェルス市は1905年、オーウェンズ・バレーの農民の水利権を買い取り、水路が開設して水を確保しているのだが、水不足に悩む農民と、大量に水を消費する都市住民との間には絶えず、軋轢が生じている。
 確か、映画「チャイナタウン」も、カリフォルニアの水利権事情が描かれていたような記憶がある。
 そういえば、JR東日本が新潟県に置く水力発電所が信濃川から制限を超える量の水を不正に取り入れていたことが発覚し、水利権の取り消しを受けたという事件もつい最近あった。

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