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2010年1月 1日 (金)

 『風が強く吹いている』『神の領域―検事・城戸南』

2010年1月1日 『風が強く吹いている』『神の領域―検事・城戸南』

 昨年に収録されたお笑い芸人たちが騒いでる番組のオンパレードの中、温々としながらテレビを観る楽しみは、スポーツのライブ放送と、CSで映画を観るくらいしかない。
 スポーツのライブ放送といえば、1日の天皇杯サッカー、2日のラグビーの大学選手権準決勝の2試合、そして、ひときわ人気のあり、高視聴率なのが、2日と3日の2日間にわたる箱根駅伝である。
 何気なく、テレビを見ていいる内に、延々と見てしまうのは、夏の甲子園の高校野球と似ている。
 箱根駅伝が人気を得るようになったのは、1987年(昭和62年)の 第63回大会から、日本テレビが、往路、復路の全区間のライブ放送を開始し、全国放送をするようになったことが大きい。主催している読売新聞社の本社のある大手町から、東海道を走り、箱根の芦ノ湖までの道を往復する。10人の選手が各自20km強の距離を走る。
 1日には、実業団対抗のニューイヤー駅伝が群馬で行われているのだが、東海道からの箱根路、富士山が見えるという沿道の景色の点からいって、断然、箱根駅伝の方が魅力的で、正月の茶の間でのんびりテレビ観戦をするには絶好である。
 
 大学駅伝としては、出雲駅伝、全日本大学駅伝と箱根駅伝が三大大学駅伝とされているが、出雲駅伝と全日本大学駅伝は全日本学生陸上競技連盟が主催者であるのに対し、箱根駅伝は、関東学生陸上競技連盟が主催しており、参加できる大学も関東の大学である。従って、全日本の方が格が上となるはずであるが、10月に始まる出雲駅伝から、全日本駅伝、そして、箱根駅伝が最終戦と位置づけられており、関東の大学にとっては、最終目標の駅伝となっている。
 歴史的にみても、1920年(大正9年)に第1回大会が行われた箱根駅伝がもっとも古い。第1回大会は、アメリカ大陸の継走での横断を実施するためとの代表選考会として行われた。ロッキー山脈を横断するということから、箱根の山路を走るということになったらしい。
 大陸横断マラソンといえば、トム・マクナブの『遥かなるセントラルパーク 大陸横断ウルトラマラソン』(文春文庫)を思い出すが、1920年代に行われた大陸横断レースは、一人が走り通すウルトラ・マラソンで、しかも、賞金レースだから、箱根駅伝とは関係がない。
 箱根駅伝の人気は、テレビ放映により、絶好のPRとなる宣伝として、関東の大学間の選手獲得競争を激化させており、優秀な選手を集めることができる指導者を監督に起用している。昨年(2009年)、初優勝した東洋大学の受験者は1万人増加したが、駅伝の優勝効果が多々あったといわれている。そのため、新興の大学には、陸上部ではなく、駅伝に特化した駅伝部として活動しているところもある。
 一方、駅伝の人気により、勝負を重視し、トラックレースを軽視することになり、トラックレースにより、スピードを養い、マラソンを走るという最近の陸上の流れに反することになる。
 三浦しをんの『風が強く吹いている』は、走る才能を持ち、何よりも走ることが好きな清瀬灰二(セイジ)と蔵原走(カケル)は、高校の陸上競技部の生活になじめず、陸上競技とは無縁の寛政大学に入学してきた男たちの物語である。
 走ることを忘れられない4年生のセイジは、入学してきた走の走るフォームを見て、箱根駅伝に出場しようと決意する。メンバーは、おんぼろアパートの竹青荘にに住む10人の学生。大半は、走ることに無縁の生活を送っていた。素人の学生が、箱根駅伝に出るために、トレーニングをし、予選会を突破する必要がある。箱根駅伝に出る大学は、学生選抜を除くと、19校、前年の10位までがシード校となるので、予選会を9位以上となる必要があるが、昭和公園で行われる予選会のタイムの他に、インカレ出場のポイントが考慮されるので、予選会のタイムだけでは予選会を突破することができない。
 物語では、ハイジと走らが、予選会を突破し、箱根駅伝を走ることになり、現実の箱根駅伝を知る者にとっては現実感のない絵空事とするであろうが、三浦は、この小説のなかで、箱根駅伝の歴史とその仕組みを分かりやすく説明しており、運動部のもつ理不尽な世界をさりげなく、描いている。そして、何よりも、大手町と箱根の間のコースの描写がリアルで、テレビの映像や解説では知ることのできない走路の状景が手に取るように見えてくる。箱根駅伝のファンであれば、是非、読んでほしい小説である。

 堂場瞬一の『神の領域―検事・城戸南』は、箱根駅伝に出ながら、体調不良で、途中で、棄権をした過去をもつ検事・城戸南が主人公である。

 「駅伝は走ってみないと分からないからな。マラソンよりも予想しにくいと思うよ。マラソンは一人でずっと走っていくだけだから、選手の調子も把握しやすいけど、駅伝の場合はそうはいかない。一人でも調子が悪い選手がいれば、残りの選手がカバーしてもどうにもならないことが多いからね」
  「分かってるよ。俺はほかのどんな選手よりも良く分かってる」言葉を吐き出してから奥歯を噛み締める。苦い痛みが蘇った。
  「まだ気にしてるのか」トラックに視線を落としながら、久松がほそりとつぶやいた。
  「今でも夢に見るよ。二十年以上も前のことなのに」
  「お前がそれだけ真剣に走ってた証拠じゃないか」
  「そうかもしれないけど……今でも陸上部の集まりには顔を出せないんだ。毎年OB会の招待状が来るんだけど、やっぱり出席する気にはなれないな。何を言われるか、分かったもんじゃない」(p165)

  横浜地検の本部係検事・城戸は、殺人事件の被害者が履いていたシューズに、湘南大の陸上競技部のマークに気がつく。城戸の古馴染みの湘南大の監督の久島は、かつてマラソンの世界最高記録を持ち、実業団の監督として、初マラソンで日本最高の記録を出した選手を育て、実業団駅伝で二連覇を達成し、湘南大の監督に就任して、わずか2年で、箱根駅伝に初出場させた実績をもつカリスマ指導者である。被害者は、箱根駅伝の補欠であったが、膝の故障から退部していた。
 城戸は、自身の苦い過去と向き合いながら、事件の解決にのめり込んでいく。事件の展開としては、いささか甘さがあるが、陸上界の裏の世界を垣間見せ、、また、城戸を取り巻く、サイドストーリーの展開も面白い。
  これまた、箱根駅伝を見ながら、この物語を味わうのも一興な小説である。

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