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2010年6月14日 (月)

『初陣 隠蔽捜査〈3.5〉』 

2010年6月13日 『初陣 隠蔽捜査〈3.5〉』 今野 敏 新潮社
  『果断―隠蔽捜査〈2〉』で、 山本周五郎賞・日本推理作家協会賞を受賞した今野敏の「隠蔽捜査」シリーズは、息子の不祥事により、長警察庁長官官房の広報室長から大森署署長に左遷された竜崎伸也が主人公の警察小説である。現在、『疑心ー隠蔽捜査〈3〉』まで刊行されている。
   〈3.5〉とあるのは、「隠蔽捜査」シリーズに、脇役として登場する伊丹俊太郎を主人公とする番外編だからである。
   警察の幹部になるのは、国家公務員の上級職試験に合格したキャリア組である。しかも、東大卒でなければならない。私大卒のキャリアは、東大卒のキャリアを乗り越えることは至難である。
   私大卒の伊丹と東大出身の竜崎は、小学校が同級生の幼なじみであるが、警察庁内では立場が異なる。伊丹は、私大卒であることを意識し、竜崎は気になる存在である。
  伊丹は、福島県警の刑事部長から、警視庁の刑事部長となり、息子の不祥事により、大森署長に降格された竜崎を指揮命令する立場となる。
   
   福島県警から警視庁への異動の内示を受けた伊丹は、県警の管轄内でおきた殺人事件の捜査本部で陣頭指揮をとるべきか悩み、竜崎に電話をかける『指揮』から、大森署管内でおきた事件をめぐる『静観』までの8つの短編からなっている。
 
   会社勤めでも、同期入社の幼なじみが上司となるということには微妙な綾がある。
   東大出のキャリアの強みは、少数のエリートを形成し、警察内部だけではなく、官僚、政界、財界と、長年培われたネットワークがあるということである。大学を出て、官僚になった頃には、原理原則から物事を考え、青雲の志をもっていても、次第に、ネットワークに取り込まれていくのだが、伊丹の目からは、竜崎は原理原則を曲げようとしないことがまぶしくみえる。
   一方の伊丹は、私大出のキャリアの生きる道として、殺人事件の捜査本部で陣頭指揮をとることを自己に課し、メディアに対しても、積極的に対応することを心がけている。
   「隠蔽捜査」シリーズは、この2人の生き方の対比が物語に深みを与えている。
   ミステリ的要素は薄いが、隠蔽捜査シリーズの番外編、裏話として面白く読んだ。

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