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2010年6月20日 (日)

『インビクタス~負けざる者たち』

2010年6月20日 『インビクタス~負けざる者たち』 ジョン カーリン 日本放送出版協会

 ワールドカップと称するスポーツ大会は多々あるが、現在、南アフリカで開催されている「FIFAワールドカップ」の代名詞となっているが、もう一つのワールドカップといえば、ラグビーワールドカップである。
 ジョン カーリンの『インビクタス~負けざる者たち』は、1995年、南アフリカで開かれたラグビーワールドカップの物語を軸にしたノンフィクションである。
 南アフリカは、世界の非難を受けながらも、公然と人種隔離政策(アパルトヘイト政策)をとっていた国である。
 人種隔離といっても、白人と黒人という単純な図式ではない。南アフリカには、当然のことながら、先住のアフリカ諸民族の住んでいたのだが、17世紀にオランダが東インド会社の中継基地として、ケープタウンを植民地とした。この植民地に入植した移民をブール人という。日本では、ボーア人というほうが馴染み深いかもしれない。
 18世紀には、イギリスが、南アフリカの金やダイヤモンドを狙って、ケープタウンを占拠し、ブール人と対立する。ナポレオン戦争後、植民地がオランダからイギリスに譲渡されると、英語を解さないブール人はイギリス人から差別されるようになり、自らアフリカーナと呼ぶようになる。
 1948年にアフリカーナーの農民や都市の貧しい白人を基盤とする国民党が政権を握り、アパルトヘイト政策(人種隔離政策)を推進していった。
 ネルソン・マンデラは、反アパルトヘイト運動により反逆罪として逮捕され、ロベン島にある刑務所に収監されていたが、国際的に孤立し、南アフリカデ・クラーク大統領は1990年代に、アパルトヘイト政策の廃止を決断し、マンデラらと話し合いを始める。
 マンデラは、主義主張が異なり、一枚岩ではないアフリカ民族会議(ANC)の構成員たちをまとめながら、アパルトヘイト政策(人種隔離政策)の廃止により、生命・財産を失うのではないかと恐れるアフリカーナとの融和を平和的に図っていく。
 この平和的な融和策にとって、もっとも効果のあったが、1995年、南アフリカで開かれたラグビー・ワールドカップの開催であった。
 南アフリカのサッカーは黒人を中心としたスポーツで、ラグビーは白人しかも、英国系の白人のスポーツであった。
 代表チームの「スプリングボクス」は強豪チームであったが、1981年、ニュージーランド遠征をした際、アパルトヘイト政策をとる国のチームということで各地で反対運動に見舞われ、1985年には、国際舞台から締め出されてしまう。

 ニュージーランドのオールブラックス、オーストラリアのワラビーズとともにトライネイションズを形成する南半球の強豪である。サッカーの南アフリカ代表がアフリカ系の選手を中心に構成されているのに対し、スプリングボクスはヨーロッパ系の選手が主体となって構成されているのが特徴的である。そのためかつては、アフリカ系に不人気だった。
 1994年4月、全人種が参加した総選挙により、アフリカ民族会議が勝利し、ネルソン・マンデラが大統領に就任した。
 南アフリカで、ラグビーワールドカップが開かれたのはその翌年の1995年である。
 スプリングボクスは、アフリカーナ1人のみで、その他は英国系白人のチームで、黒人たちが応援をすることは考えられなかったが、マンデラは、スプリングボクスの戦いを通じて、黒人、英国系白人、アフリカーナたちの融和を図ろうとする。
 
 ジョン・カーリンは、熱くならず、淡々と、南アフリカの置かれている状況、マンデラを取り巻く敵や味方の様子を淡々と描いているのだが、ヨハネスブルクのエリス・パークでのスプリング・ボクスとニュージーランドのオールブラックスの試合の場面は感動的である。感動といっても、大袈裟なものではない、静かなる感動である。
 当然のことながら、南アフリカの抱える問題はこの場面で終わる訳ではなく、FIFAワールドカップが開かれている今でも、貧富の格差、犯罪率の高さなどがいわれている。
 それでも、『インビクタス』を読むことにより、何故、南アフリカでFIFAワールドカップを開催したのか、開会式にマンデラが登場するのが熱望されたのがよくわかる。マンデラは、孫の交通事故死を理由に開会式を欠席した。マンデラが刑務所に収監されているときに、息子を交通事故で失っている。開会式をどのような気持ちで迎えたのだろうか。

 日本チームの思いもかけない活躍に熱狂するのもいいのだが、このような南アフリカの歴史や社会状況を知ることにより、ワールドカップのもつ意味を噛みしめながら、TV観戦をしてみようと思う。
 ラグビーワールドカップの決勝戦が開かれたエリスパークは、アルゼンチン vs ナイジェリア戦、ブラジル vs 北朝鮮などの試合の会場である。21日のスペイン vs ホンジュラス戦など、これから数試合行われる。
 日本チームにも、南アフリカという国をよくみてきてほしいと思うのだが、快適な環境に隔離されていて無理でしょう、

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