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2011年6月 9日 (木)

『ぼくらの青春 下町高校野球部物語』

2021年5月23日『ぼくらの青春 下町高校野球部物語』 河出書房新社

書店に入ると、1冊の本が呼びかけてくることがある。
いつものことではない。
体調がいいと、本の気配がしてくるのである。
そういう気分で買ってきた本を買っても、いつもすぐに読むわけではない。
我が家の書棚や床に積んである本が手招きをしてくる瞬間がある。

 半村良の『ぼくらの青春 下町高校野球部物語』には、「松丸本舗」のブックカバー
がついている。昨年、丸善のオアゾ店にある「松丸本舗」で買った本である。
 半村良の新刊がハードカバーで?と思いながらつい手に取ってしまった。
 半村良といえば2002年に亡くなっているが、相続人がおらず、著作権の継承者がいないので、出版社が出版できないでいるとの話しを聞いていた。
 半村良は、「産霊山秘録」、「石の血脈」などの伝奇小説の人気が高いが、私は、直木賞を受賞した『雨やどり』のような人情小説が気に入っている。
 このところ、スポーツ小説を集中的に読んでいることもあって、半村良の『ぼくらの青春 下町高校野球部物語』を買ってしまった。
 奥付にある出版年月日が2010年10月とあるので、昨年の11月の頃のことである。 買ってすぐに読み出す本もあるが、この本は、ベッドの脇の床においたままになっていた。

 「東京都立下町高校は、国電総武線の江東町駅から歩いて十分ほどのところにある。」という文章で始まるのだが、その後に、「と、まあ、こう書き出したのであるが、もちろん東京に下町高校などという名の高校のあるわけもないし、国電の総武線に江東町なる駅があるはずもない。」と続く。
 
 この緩い書き出しに、それ以上、読む気分になかなかならなかったのだが、快い気候になり、気分も爽快な日に、ふと手に取り、読み出した。
 それほど、期待していたわけではないのだが、それが結構おもしろい。ちょっと軽めだ
が、人情味にあふれていて、最後は結構ぐっときてしまう青春小説になっている。
 日本国有鉄道が民営化し、JRとなったのが1987年のことである。「国電」とは古いなと思い、初出をみると、1978に東京スポーツ中日新聞に連載となっている。

 よくある話しである。
 創立50余年の伝統をもつ都立下町高校は、有名大学を目指す受験校となり、鬱々とした学校生活をしている高校生が、下町高校には、野球のうまい生徒がいることに気づき、一度だけの本気の試合をしようと、先生の目を盗んで、野球部に勧誘し、チームを作っていく。
 スポーツ新聞の連載だから、内容が軽いのは仕方がないが、当時の高校野球の状況をうまくつかんでいる。今にもつながってくる高校野球事情もたくさんあり、知っているよといいたくなることもあるのだが、今ほど情報が溢れていなかった30年以上前に書かれた小説ということを考えると、よく書けている。
 強豪チームと一試合を戦う目標がいつのまにか高校野球の都予選に出場することになり、勝ち進んでいくという話しになるのだが、残り50ページあたりでようやく都予選の試合の話になる。どのように最後をまとめるのかなと心配しながら読んでいったのだが、さすが、半村良らしい小味の効いたエンディングになっている。
 読後感のさわやかな1冊ある。

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